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大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)29号 判決 1985年3月27日

神戸市灘区水道筋二丁目二四番地

控訴人

稲泉実豊

右訴訟代理人弁護士

持田穣

神戸市灘区泉通二丁目一番地

被控訴人

灘税務署長

堀内公高

右指定代理人

田中治

杉山幸雄

高見忠男

中村嘉造

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人に対して昭和五〇年七月二日付でした、控訴人の同四七年分所得税の更正処分のうち、所得金額二六〇万円、税額二六万一一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

(三)  被控訴人が控訴人に対して昭和五〇年七月二日付でした、控訴人の同四八年分所得税の更正処分のうち、所得金額一二五三万四〇〇〇円、税額四二四万三〇〇〇円を超える部分並びに過少申告過算税及び重加算税の各賦課決定処分を取り消す。

(四)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

二  当事者の主張及び証拠関係

次に付加する当審における当事者の主張のほかは原判決事実摘示と同じ(ただし、原判決三枚目表四・五行目の「裁決をし」の次に「、右裁決は同月二四日控訴人に送達され」を、同四枚目表四行目の「買主訴外」の次に「学校法人」を各挿入し、同九枚目裏八行目の「同月二六日ころ」を「昭和四八年五月二六日ころ」と訂正する。)であるからこれを引用する。

1  控訴人

(一)  必要経費の立証責任について

本件における必要経費の存在及びその額についての立証責任は被控訴人(課税庁)が負担すべきものであり、したがって、必要経費につき控訴人(納税者)においては領収書等によって一応の立証をすれば足り、これに対し被控訴人が反対の証明、すなわち控訴人主張の必要経費の不存在を証明すべきであり、かくして後はじめて所得金額が立証されたというべきである。

(二)  昭和四七年分について

(1) 西に対する一七五万円の支払について

控訴人の主張に反する西の供述を記載した乙第二、第三号証、第九号証は、右一七五万円の支払がなされて三年ないし七年も経過後に作成されたものであり、その都度受取金額が異なっており、甲第三号証の領収書の記載と対比して右各供述記載は到底信用できない。西は右一七五万円の取得を税務申告しておらず、これに対する課税を恐れて被控訴人に迎合する供述をしたものである。

(2) 堀、柴原に対する各二〇万円の支払について

柴原は安宅興産を代理して買主側の仲介をしたものであり、安宅興産は買主から仲介手数料を取得したが、これとは別個に、売主側の仲介人であった控訴人外三名は柴原個人に対し、仲介協力費として各二〇万円(合計八〇万円)を支払ったものである。堀に対しても二〇万円を支払っており、本件のような関係者に領収書なしで仲介手数料が支払われるのは、業界の慣行である。

(3) 渡辺に対する一〇〇万円の支払について

渡辺は不動産会社の富士工務店のために多井畑の物件を買収しようとしていたが、これに必要な調査費のうち一〇〇万円を控訴人は渡辺のために立替払していたところ、昭和四七年一二月一日に成立した控訴人と渡辺との間の本件覚書により右一〇〇万円は控訴人の負担と合意したものであるから、右一〇〇万円は必要経費に算入されるべきである。

(三)  昭和四八年分について

(1) 浜田から取得した七〇万円について

清水が丘の物件の売買を仲介したのは渡辺であって、このことは甲第一〇号証の右売買の契約書の仲介者欄に渡辺の署名捺印があることから明らかである。もし控訴人が甲第一〇号証により仲介人渡辺の存在を仮装したならば、七〇万円の領収書(乙第七号証の二)も渡辺の名義で発行するはずである。

(2) 渡辺に対する一〇〇〇万円の支払について

右一〇〇〇万円の領収書(甲第一五号証)の作成名義人が有園建設となっているのは、控訴人が一〇〇〇万円を渡辺に支払った際、渡辺が控訴人に対して自分は有園建設の役員であるから同社名義の領収書を発行すると言ったのでこれを信じて右領収書を受領したものである。渡辺が右のような領収書を作成することにより右一〇〇〇万円の取得に対する課税を回避しようとする意図があったかもしれないが、控訴人が一〇〇〇万円を渡辺に支払ったことは事実である。

また、被控訴人は、本件訴訟に至るまで右一〇〇〇万円の支払を必要経費として認めていたから、本件訴訟になってからこれを否定することは許されない。

(3) 高原に対する五〇〇万円の支払について

高原丘風名義の神港信金六甲支店の預金は高原こと柳屋雅之助のものであって、控訴人は右預金に五〇〇万円を払い込んで右五〇〇万円の支払をしたものである。

2  被控訴人の主張(渡辺に対する一〇〇〇万円の支払について)

控訴人は、右一〇〇〇万円の支払先につき、当初被控訴人の担当者に対し、有園建設作成の領収書(甲第一五号証)を示して同社に支払った旨説明したので被控訴人はこれを了解したが、本訴提起後有園建設の代表者有園明に対する調査の結果控訴人が有園建設に一〇〇〇万円の支払をしたことのないことが判明したので、被控訴人は昭和五五年六月二日の原審第一四回口頭弁論期日にその旨を主張し、右調査結果を乙第一二号証として提出した。これに対し、控訴人は同年一二月一七日の原審第一六回口頭弁論期日において突如として右一〇〇〇万円の支払先は渡辺であると主張を変更し、甲第一七号証の覚書を提出するに至ったものである。右のような経過からすれば、甲第一七号証は後日作成された可能性が強く、渡辺に対する右一〇〇〇万円の支払は存在しないというべきである。

理由

一  控訴人が肩書住所地において「出雲商事」の商号で不動産仲介業を営んでいること及び請求原因1の事実は当事者間に争いない。

二  そこで、本件各処分が適法か否かについて検討する。

1  必要経費の立証責任について

控訴人は、必要経費の立証責任は被控訴人(課税庁)にあると主張するところ、本件のように課税処分の根拠事実である事業所得金額に争いのある場合、課税庁は、右所得金額の存在を立証すべきであり、この意味で収入とともに必要経費についても主張立証責任を負担するというべきである。しかしながら、必要経費の主張立証といえども、課税庁が認定した収入につき通常その収入を得るに必要とみられる経費を主張立証すれば、課税庁の右責任は一応尽くされたというべきであり、それ以上の経費の不存在までもすべて課税庁が主張立証すべきものと解すべきでない。納税者としては、課税庁が右のように主張立証した経費以上の存在を主張して所得金額を争う場合は、これに関する反証によって争うことが可能であり、この反証を挙げることは納税者にとって有利かつ容易であり、右反証が尽くされないときは、課税庁の主張立証した所得金額につき証明があったものと解するのが相当である。

2  昭和四七年分の本件更正処分について

(一)  収入金額

控訴人の昭和四七年分における事業による収入金額が一二四七万三八三〇円であることは当事者間に争いない。

(二)  必要経費

(1) 控訴人の昭和四七年分における必要経費として、原判決別表(四)の2ないし11合計一九〇万六五五六円及び支払手数料三二九万円(原判決別表(三)の1ないし5の合計)の合計五一九万六五五六円が存在することは当事間に争いない。

(2) 次に、控訴人が主張する右(1)を超える必要経費の存否につき検討する。

<一> 支払手数料

<1> 西に対する支払について

有野町の物件の売買に関して控訴人が西に対して六〇万円の手数料を支払ったことは当事者間に争いないところ、控訴人は西への支払額は一七五万円であると主張する。

売主前中ほか五名と買主兵庫栄養専門学校との間の有野町の物件に関する売買が成立し、控訴人が右学校側の仲介人として関与し、右学校から五三六万七八三〇円の仲介手数料を取得したことは当事者間に争いなく、この事実、原審証人池田文生の証言により成立を認めうる乙第二、第三号証、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第九号証、原審における控訴人本人尋問の結果(第一回、後記措信しない部分を除く。)によれば、控訴人が右学校のため売主らと売買の交渉をするにあたり、地元の有力者であった西に売主らに対する説得につき協力を求め、西の努力もあって右売買が成立し、控訴人は西の努力に報いるため西に対し、昭和四七年中に自己の取得した右仲介手数料のうちから金員を交付したが、その額は多くとも一〇〇万円を超えないことの各事実を認めることができる。

右認定に反する証拠として、甲第三号証(西作成名義の一七五万円の領収書)が存在し、原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)中には、控訴人は取得した仲介手数料五三六万七八三〇円から争いのない原判決別表(三)の4、5の合計七九万円及び前中に対して一〇〇万円を支払い、その残額三五七万七八三〇円の約半分にあたる一七五万円を西に支払い、西自身が署名捺印した甲第三号証の領収書を徴したとの供述部分がある。しかしながら右供述中の前中に対する一〇〇万円の支払は後記(2)のとおり認めることができないことからして控訴人の右供述部分はにわかに措信し難く、また前記乙第二、第三号証、第九号証によると甲第三号証の真正な成立自体にも疑問があり、甲第三号証の存在及び控訴人の右供述によっても右認定事実を左右することはできず、他に右認定事実を覆すに足りる証拠はない。

控訴人は、当審における主張(二)の(1)で、右乙第二、第三号証、第九号証の内容は信用できないと主張するが、右乙各号証を通じ、西は控訴人から支払を受けた金額が一七五万円であること及び甲第三号証の成立については一貫して否定しており、この点について西が虚偽の事実を述べなければならない事情は本件全証拠からしても窺うことはできず、控訴人の右主張は採用しえない。

してみれば、控訴人の西に対する支払手数料は一〇〇万円と認めるのが相当である。

<2> 前中に対する一〇〇万円の支払について

控訴人は、右<1>の売買において売主の一人である前中が有野町の物件の一部である前中所有の物件を売却することに対して異議を唱えたので、買主兵庫栄養専門学校から取得した仲介手数料から価格調整返戻金として追加代金一〇〇万円を前中に支払ったと主張する。

控訴人が右売買の成立により仲介手数料を取得したこと及び前中に対して追加代金一〇〇万円が支払われたことは当事者間に争いがないところ、この争いのない事実、成立に争いのない乙第三四号証、第三八号証ないし第四〇号証、第四一号証の二、三(第三四号証、第三九号証は原本の存在も争いない。)弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第三五ないし第三七号証、第四一号証の一(第三六、第三七号証は弁論の全趣旨により原本の存在も認めうる。)及び原審における控訴人本人尋問の結果(第一、二回、後記措信しない部分を除く。)によれば、控訴人の仲介により、前中は、昭和四七年一一月三〇日に右学校に有野町の物件のうち自己所有分を代金四九四万一五〇〇円で売り渡す契約をしたが、その後右代金額が少ないと不服を唱えたので、控訴人は、右契約で右代金の支払日とされた同年一二月二五日右学校を代理して金額一〇〇万円の小切手を交付して追加代金を支払い、前中から「小切手にて」との記載のある同日付領収書(乙第四一号証の二)を徴し、これを右学校に交付したこと、右追加代金は右学校が負担したものであることを認めることができる。

右認定のような売買代金の追加金は、通常は買主が負担すべきものであるから、仲介業者である控訴人がこれを負担したとの主張自体不自然であり、右主張に沿う原審における控訴人本人の供述(第一、二回)部分も変転していて前掲証拠と対比して措信し難く、甲第二一号証によっても右認定を左右するに足らず、控訴人の右主張は採用しえない。

<3> 柴原及び堀に対する各二〇万円の支払について

控訴人は、滝山町の物件の売買に関して控訴人ほか三名が買主側の、柴原(安宅興産代理人)が売主側の各仲介人として仲介した際、控訴人ほか三名は取得した仲介手数料から柴原個人に対して仲介協力費として各二〇万円を、また控訴人は同人のために隣地の所有者と交渉に当たった堀に対して手数料二〇万円を各支払ったと主張する。

原本の存在、成立に争いのない乙第一号証、原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)により成立を認めうる甲第二五号証、右本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人ほか三名が買主平和産業側の、安宅興産代理人柴原が売主松元ほか二名の側の仲介人として関与し、昭和四七年三月に滝山町の物件につき売買が成立したことを認めることができ、これに反する証拠はない。

ところで、控訴人の主張する柴原及び堀に対する各支払については領収書等の客観的な資料はなく、そのうえ、売主側の仲介人安宅興産の代理人である柴原に対して買主側の仲介人控訴人ほか三名が控訴人のいうような合計八〇万円もの仲介協力費を支払うことは通常ありえないことであることからすれば、右各支払はなかったものと認めるのが相当である。

右認定に反し、右売買の仲介人欄に堀の氏名が記載されている甲第二号証が存在するが、これは売主、買主の各署名捺印のなされていない契約書の控にすぎないことはその記載自体から明らかであって、同甲号証の存在が右認定を左右することはなく、また、右主張に沿う控訴人本人の供述(原審第一回)部分はこれを裏付けるに足りる資料はないから直ちには措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうだとすると、控訴人の主張する右各支払は認められない。

<二> 調査費用

<1> 山家、藤原、中山、中村に対する合計六〇万円の支払について

当裁判所も右各支払の事実は存在しないものと認めるのが相当であると判断し、その理由は原判決理由中の該当部分(原判決二九枚目裏九行目から同三三枚目裏八行目まで)と同旨(ただし、右部分中の原告本人尋問の結果はいずれも第一回のそれをいう。)であるからこれを引用する。

<2> 渡辺に対する一〇〇万円の支払について

控訴人は、同人がしていた小束山の物件に関する仲介業務と、渡辺が不動産会社富士工務店のためしていた多井畑の物件の買収業務につき、右両名は昭和四七年一二月一日に本件覚書(甲第一七号証)を作成して業務提携し、これによりその以前に控訴人が渡辺のために立替払した多井畑の物件に関する調査費用合計一〇〇万円は控訴人が負担することを合意したと主張する。

原審証人渡辺の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)により成立を認めうる甲第一一号証の一ないし四、右証言により成立を認めうる甲第一二、第一三号証、原審証人池田文生の証言により成立を認めうる乙第一六、第一七号証、第二一ないし第二八号証、原審証人渡辺の証言、原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すると、<イ> 渡辺は株式会社いいだから多井畑の物件の買収を依頼されたが、同会社は会社名を表に出すことを好まず、買収に要する代金はすべて同社が負担し、報酬も支払うが、渡辺を買受名義人として買収することを指示し、渡辺は昭和四七年ころから右買収にかかったこと、<ロ> 控訴人は渡辺に対し同年七月から同年九月までの間四回にわたり右買収に必要な費用に充てるため預り金ないし借用金名義で合計五一万八〇〇〇円を交付したこと、<ハ> 渡辺は同年末ころから翌四八年初めころにかけて森本絹栄外五名から多井畑の物件を買い受ける契約をしたが、右売買契約成立時にはじめて控訴人が仲介人として関与し、控訴人は売主六名から昭和四八年中に仲介手数料として合計七八〇万円を取得した(控訴人が多井畑の物件の売買に関して昭和四八年中に合計七八〇万円の仲介手数料収入を得たことは当事者間に争いない。)。しかし、右買収交渉の一切を渡辺がしていたことから控訴人は渡辺に対して昭和四八年中に二回にわたり合計四〇〇万円を支払ったことを認めることができる。

右認定に反して、前記証人渡辺及び控訴人本人の各供述中には渡辺が不動産会社富士工務店からの依頼により多井畑の物件の買収交渉をし、控訴人は渡辺に対しそのために要した調査費用一〇〇万円を超える金額を支出したとの部分があるが、右供述を裏付けうる資料はないから措信できず、他に右認定を左右しうる証拠はない。

次に、控訴人主張の本件覚書による合意についてみると、甲第一七号証によると、多井畑、小束山の各物件について控訴人と渡辺が協力して、売買、買収、開発等を実行するとし、その経費については各自負担としながら控訴人は可能な限り渡辺を援助することとし、利益の配分は平等としながら小束山の物件の手数料のうち一〇〇〇万円を控訴人が渡辺に支払うというなどその約定の内容が必ずしも明確でないところがあり、前記証人渡辺、控訴人本人の各供述によっても本件覚書に基づいて行われた具体的な事業の存在を認めることはできないし、のみならず本件覚書には控訴人の主張するような一〇〇万円もの調査費用を控訴人の負担とすることを認めうる記載は一切ない。

しかしながら、右認定事実によれば、渡辺は控訴人が仲介した多井畑の物件の売買に関して実質上買収交渉一切を行ったものであってそのために控訴人から四〇〇万円の支払を受けていたことからすれば、右認定の<ロ>の五一万八〇〇〇円はその支出名義にかかわらず、右物件の売買仲介に関する控訴人の事業につき渡辺が協力したことに要した費用として支払われたものと認めることができ、これは控訴人がその事業のために要した経費として認めるのが相当である。

したがって、控訴人主張の渡辺に対して支払った調査費用は右の限度で存したが、それ以上の額は存在しなかったというべきである。

<三> 印刷代

控訴人は前記<一>の<1>の売買成立時に売買契約書等に貼付すべき印刷代四万円を自ら負担したと主張するが、売買契約書等に貼付する印刷代は通常は売買当事者の負担すべきものであり、仲介人である控訴人においてこれを負担すべき特別な事由があったとの主張立証もないから、右印紙代を必要経費と認めることはできない。

(3) 以上のとおりだとすると、昭和四七年分の必要経費は前記(1)の五一九万六五五六円、(2)の<一>の<1>の一〇〇万円及び(2)の<二>の<2>の五一万八〇〇〇円の合計六七一万四五五六円を超えないものと認められる。

(三)  以上の認定からすると、昭和四七年分事業所得は、前記(一)の収入金額一二四七万三八三〇円から右(二)の(3)の必要経費六七一万四五五六円を控除した五七五万九二七四円と認められる。

そうだとすると、昭和四七年分の本件更正処分は、右認定の事業所得金額の範囲内で総所得金額を認定し、これに対応する税額を六四万七二〇〇円と決定したものであるから、同処分は適法である。

3  昭和四八年分の本件更正処分について

(一)  収入金額

(1) 控訴人の昭和四八年分の事業所得における収入金額のうち四七八〇万円については当事者間に争いない。

(2) 被控訴人は、右(1)以外に、控訴人は、昭和四八年六月一四日、浜田から清水が丘の物件の売買仲介手数料七〇万円を取得したと主張し、控訴人は右は控訴人が浜田に立て替えていた費用の弁済金であると主張する。しかし、当裁判所も右七〇万円は控訴人の収入金額に算入すべきであると判断する。その理由は原判決理由中の該当部分(原判決三七枚目表六行目の「原本の存在」から同枚目裏末行まで)と同じ(ただし、同枚目裏九行目の末尾に「右認定に反する原審における控訴人本人尋問の結果(第一回)は右各証拠と対比してにわかに措信できず、」を付加する。)であるからこれを引用する。

もっとも、右七〇万円は、売買価格四〇四二万二〇〇〇円の約一・七三パーセントの額であり、仲介手数料としては低額に過ぎるが、右引用にかかる原判決理由認定事実によれば、買主ニッチの代表者が控訴人であることからすれば通常よりも低額の仲介手数料が支払われたとしても不自然ではないし、前記乙第七号証の一、二によると、浜田は清水が丘の物件売買に関して支払った手数料は右七〇万円に止まると認められ、他に控訴人が主張する仲介人の渡辺が仲介手数料を取得したと認めるべき資料もないのであるから、右七〇万円は控訴人が取得した仲介手数料と認めざるをえない。

(3) 以上によれば、控訴人の収入金額は右(1)と(2)の合計四八五〇万円であるというべきである。

(二)  必要経費

(1) 控訴人の昭和四八年分における必要経費として、原判決別表(五)の3ないし7の合計九七一万二〇一八円と旅費交通費二五四万円及び支払手数料八二〇万円、以上合計二〇四五万二〇一八円が存在することは当事者間に争いない。

(2) 次に、控訴人の主張する右(1)を超える必要経費の存否につき検討する。

<一> 旅費交通費

控訴人は、旅費交通費として、前記(1)の二五四万円以外に二四万五〇〇〇円を支出し、その合計は二七八万五〇〇〇円であると主張する。

しかしながら、当裁判所も控訴人主張の二四万五〇〇〇円の支出はなく、したがってこれを必要経費に算入することはできないと判断する。その理由は原判決理由中の該当部分(原判決三八枚目表七行目の「前掲甲第一号証」から同枚目裏九行目まで)と同じ(ただし、同枚目表七行目の「乙第五号証」の前に「原審証人池田文生の証言により成立を認めうる」を付加する。)であるからこれを引用する。

<二> 支払手数料

<1> 渡辺に対する一〇〇〇万円の支払について

控訴人は、渡辺との間の昭和四七年一二月一日付本件覚書(甲第一七号証)による合意に従い、控訴人が小束山の物件の仲介によって取得した仲介手数料のうちから一〇〇〇万円を同四八年五月二六日ころ渡辺に対して支払ったと主張する。

なお、控訴人は、被控訴人は右一〇〇〇万円を審査請求に対する裁決の段階においては必要経費に算入していたからこれを本件訴訟において否定することは許されないと主張するが、本件のように課税処分の根拠事実たる所得金額について争いのある場合は、双方当事者とも審査請求段階における主張に拘束されることなく、現実に存在した所得金額、すなわち収入金額と経費額を主張しうるものと解すべきであるから、控訴人の右主張は採用しえない。

よって、右一〇〇〇万円の支払の存否につき検討する。

控訴人は、右一〇〇〇万円の支払の立証として甲第一五号証を提出する。同証は昭和四八年五月二五日付の有園建設名義の控訴人宛の一〇〇〇万円の土地売買手数料領収証であるが、成立に争いのない乙第一〇、第一一号証、原審証人池田文生の証言により成立を認めうる乙第一二号証によると、有園建設は控訴人ないし渡辺から一〇〇〇万円の金員を受け取ったようなことはないこと、右領収証は、昭和四八年一一月ころ同会社に対し昭和恒産株式会社から八〇〇〇万円の融資をしようとの話があり、その内金として額面合計三〇〇〇万円の渡辺振出の約束手形一〇枚が有園建設に交付された際、有園建設の代表者有園明が相手方に渡した二枚の領収証の一枚であること、有園明は、印刷されている有園建設の住所、会社名下に同社の印を押捺し、同人が発行部長欄にサインしたのみで、金額、日付等白紙のままの領収証二枚を渡したものであること、右約束手形一〇枚は満期に支払われず昭和恒産株式会社に返還されたことが認められる。してみると、甲第一五号証は、その作成名義人の意思に反して無断流用されたものと認められ、これをもって控訴人主張の一〇〇〇万円支払の事実を証するものとはなし難い。

右に関し、原審証人渡辺、控訴人本人(原審第一回)は、控訴人から渡辺に対して本件覚書第四条に従って一〇〇〇万円が支払われたが、渡辺名義の領収書を発行することは都合が悪く、かつこの一〇〇〇万円は有園建設に渡るものであるから甲第一五号証の領収証を用いた旨の供述をする。しかしながら、有園建設は控訴人ないし渡辺から一〇〇〇万円を受け取った事実はないのであり、かつ前認定(2の(二)の(2)の<二>の<2>)のように、渡辺は控訴人から仲介手数料を受け取った際には自己名義で控訴人に対し計四〇〇万円の領収証(甲第一二、第一三号証)を発行しているのであり、右一〇〇〇万円についてのみ渡辺名義で領収証を発行できない合理的な理由は見当らないのであって、右証人及び控訴人本人の供述部分は到底信用することはできない。

なお、甲第一七号証の本件覚書第四条についても、前記のように利益配分を平等としながらも小束山物件の仲介手数料についてのみ控訴人から渡辺に一〇〇〇万円を支払うこととしていること自体不合理であるのみならず、前記乙第二一号証によれば控訴人は小束山の物件の仲介手数料として昭和四八年、同四九年にかけて合計四五〇〇万円を取得していることが認められるが、これが如何に配分されたかについては、これを認めうる資料も存しないのであって、甲第一七号証も控訴人の右主張を証明するものとはなし難い。

他に控訴人の右主張を認めるべき証拠は全くないから、控訴人から渡辺に対してその主張のような一〇〇〇万円の支払はなかったものと認めるのが相当である。

<2> 高原こと柳屋雅之助に対する五〇〇万円の支払について

当裁判所も柳屋に対する右支払は存在せず、したがってこれを必要経費に算入できないと判断する。その理由は原判決理由該当部分(原判決四〇枚目表四行目から同四二枚目表末行)と同じであるからこれを引用する。

控訴人は、当審における主張(三)の(3)で、高原丘風名義の神港信金六甲支店の預金は柳屋のものであると主張するが、右預金が控訴人のものであることは右引用にかかる原判決理由説示のとおりであって、控訴人の右主張は到底採用できない。

<3> 以上によれば、控訴人の主張するような支払手数料は存在しないというべきである。

(3) 以上からすれば、控訴人の昭和四八年分の事業の必要経費は前記(1)の二〇四五万二〇一八を超えては存在しないというべきである。

(三)  以上の認定からすれば、控訴人の昭和四八年分の事業所得金額は、前記(一)の(3)の収入金額四八五〇万円から前記(二)の(3)の必要経費二〇四五万二〇一八円を控除した二八〇四万七九八二円であり、他に控訴人において昭和四八年分の給与所得金額として九万七二〇〇円が存在することは当事者間に争いがないから、控訴人の昭和四八年分の総所得金額は、右事業所得金額に右給与所得金額を加算した二八一四万五一八二円であると認められる。

そうだとすると、昭和四八年分の本件更正処分は、右認定の総所得金額の範囲内で総所得金額を認定し、これに対応する税額を七三二万一七〇〇円と決定したものであるから、同処分も適法である。

4  本件各過少申告加算税、本件重加算税各賦課決定処分について

当裁判所も右各処分は適法であると判断する。その理由は原判決理由中の該当部分(原判決四三枚目裏二行目から同四四枚目裏一二行目まで)と同じ(ただし、同四三枚目裏五行目の「前記2の(三)」を「前記2及び3の各(三)」と訂正する。)であるからこれを引用する。

三  以上の次第で、本件各処分はいずれも適法であるから、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきである。よって、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井玄 裁判官 高田政彦 裁判官 礒尾正)

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